漢方のお話

目からウロコの漢方①〜症例からみる漢方治療〜

第1回 熱中症と漢方
"暑さに鈍感、汗が止まらない高齢者は熱中症が危ない"

80歳代男性。退職後先祖代々の畑にもどり米つくりにまで精をだして毎日を過ごしています。さすがに今年の夏の暑さに負けてしまったようです。9月に入っても怠く食欲がなくなってしまいました。娘さんによると「少々ボケてきたようで、暑い日なのに日が翳ってくると暖房にスイッチを入れてしまいます」という。
 いやいやながら娘さんに連れられて当院へおいでになりました。さっそく認知症の診察をしましたが異常ありません。やはり高齢となって暑さを感じなくなってしまったようです。 肌の色艶も良く、体格は中肉中背で元気そうですが表情がすぐれません。「食欲が無く怠い。暑く感じないのに汗が止まらない」と。舌は苔が無く乾燥しています。脈に力が無く、弱脈です。お腹も柔らかく総合的に判断すると漢方医学的に虚証と判断されます。しかし、体温が37.1℃とやや高めです。これを漢方医学では「虚熱」と言います。血液検査をすると、肝臓、腎臓、膵臓などの内臓に異常がなく、明らかな脱水もなさそうです。
そこで清暑益気湯(せいしょえっきとう)という漢方薬を処方しました。3日後に来院して「汗が止まっている」と。1週間後には「食事が美味しくなった」と。でも娘さんが「まだ暖房のスイッチを入れてしまいます」と。2週間後には表情も明るくなり「元気が出てきました。もう薬は要りません」と。
清暑益気湯は金元時代の「脾胃論」が原典で、『長夏に当たりて、湿熱大いに勝ち、…中略… 四肢困倦して精神が短少し…』などと書かれています。生薬構成は人参・黄耆・陳皮・朮・甘草・五味子・黄柏・麦門冬・当帰の9種類の生薬からなり、人参・黄耆・陳皮・朮・甘草は胃腸を丈夫に整えて元気を益す効果があります。人参・黄耆が配合された漢方薬をとくに参耆剤(じんぎざい)と称して体力・気力を増強させる一連の漢方薬を指しています。人参・黄耆は皮膚の汗腺の機能を回復させてだらだら出る汗を止めてくれます。黄柏は深部体温を下げる効果が期待され、五味子・麦門冬は人参・黄耆と組んで体を潤し、当帰が血流を改善させる方向に導きます。
西洋薬にはこのような効果を持った治薬が皆無です。臨床経験から生まれた漢方薬の得意とする病態の一つが熱中症といえます。
熱中症にはこの清暑益気湯ばかりでなく、尿量が減少して喉が乾いて頭痛がする人の五苓散、兎に角、体が熱くて水をがぶ飲み、汗だらだらに効く白虎加人参湯などがあります。その時の体の状況で漢方薬を選びましょう。