漢方のお話

目からウロコの漢方➁〜症例からみる漢方治療〜

第2回 風邪と漢方
"風邪の漢方薬は葛根湯だけではない"

診療所の待合室で「あのおばあちゃん今日は来てないね」「どこか具合が悪いんじゃない」こんな会話を耳にしました。いつも高血圧で通院している80歳代のおばあちゃんのことです。具合が悪くなったときこそ診療所に来て欲しいのですが、風邪を引いて起きられなくなったようです。
次の日に当院へお出でになりました。「一昨日から寒気がしてかったるくて起きられなくなりました」「今日になって咳が出て喉が痛い、鼻水がでる。食欲もない」と。早速診察です。熱は37.8℃、扁桃腺は腫れてないが喉が赤い。聴診器を当ててみたが肺炎の音は聞こえない。舌を診るとつるっとしていて苔がありません。色は淡白色。脈は沈んでいて細い脈です。お腹は柔らかく弾力が無い。漢方医学的には虚証、寒証の状態にあり、傷寒論でいう少陰病期にあると診断しました。虚証の方の風邪には葛根湯(かっこんとう)は不向きです。また熱があるからといって解熱鎮痛剤はかえって食欲が無くなり寒気が高じます。麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)の出番です。
傷寒論とは、張仲景という三国志の時代の名医が1800年前に編纂した書物といわれています。熱が出るような疾病に対して、病気の時期に応じた治療方法が書かれている古典です。西洋医学では希薄な概念なのですが、病気に時間軸を入れてその治療方法を解説したことで、その理論は現代にも非常に貴重な示唆を与えています。現在の漢方治療の世界では、熱がでるような病気以外でもいろいろな病気の治療にこの理論が役立っています。
病気は太陽病気→少陽病期→陽明病気→太陰病期→少陰病期→厥陰病期と進み、その病期に合わせた治療が必要だということです。この傷寒論に「少陰病始めて之を得、反て発熱し、脈沈の者は麻黄附子細辛湯之を主る」とあり、別の古典には「少陰の病、ただ寝んと欲す」と書かれています。このおばあちゃんは正に麻黄附子細辛湯証(麻黄附子細辛湯がぴったりの病態)だったのです。服用して数日で元気よく畑にまた出て行きました。
この麻黄附子細辛湯と解熱鎮痛薬が配合された西洋薬の総合感冒薬と対比した研究があります。不思議なことに温める効果の強い(麻黄・附子・細辛いずれも温める)この漢方薬が発熱、熱感が統計学上優位に早く改善したことが明らかになりました。
現代医学はまだまだ完全でないことが思い知らされます。