院長 漢方コラム

大野クリニック 目からウロコの漢方⑦〜便秘と漢方治療~

第7回 便秘と漢方薬

《便秘》
 2016年の厚生労働省の国民生活基礎調査によると、便秘に悩む人は男性で約2.5%、女性で約4.6%でした。便秘は軽症の疾患と認識できますが、その原因に大腸がんなどの存在を考慮しなければなりません。また便秘の適切な治療を怠ることによって宿便性腸穿孔など生命にかかわる病態の報告もあります。慢性便秘は高齢者で増え、80歳を超えると1割以上となる。米国のメイヨウクリニックからの「高齢者の便秘は生命予後と関係する」との報告もあります。

 便秘の治療に当たっては、弛緩性便秘・直腸性便秘・痙攣性便秘などの‘機能性便秘’、大腸がん・腹腔内腫瘍・術後の腸管閉塞などが原因で発症する‘器質性便秘’、抗コリン薬・抗うつ薬・パーキンソン治療薬などによる薬剤性便秘、加齢・神経性疾患にも続く症候性便秘などの考慮が必要です。

 便秘の治療に用いられる西洋薬としては大黄の成分であるセンノシドで大腸を刺激する大腸刺激剤、塩類下剤である酸化マグネシウム、クロライドチャンネルアクチベータ、胆汁酸トランスポーター阻害剤、ポリエチレングリコール製剤などがあります。これらの薬剤の使用にあたっては他の薬剤との相互作用、副反応にも十分な配慮が必要です。比較的穏やかな作用で良く知られている酸化マグネシウムの使用では高マグネシウム血症の発症に注意しなければなりません。また、逆流性食道炎や胃潰瘍の薬でよく使われているプロポンプ阻害薬Iとの併用で効果が弱くなることがあります。

 便秘に対する漢方薬治療の特質は便秘そのものに対する治療だけではなく,便秘を精神的状態も含めた症状・症候の基礎となっている本質的病態の一つの表現として捉えています。したがって、漢方治療では便秘に注目して全身の病態を治そうとすることを考慮に入れることも重要な要素となります。

 【漢方薬による便秘治療の実際を考えてみましょう。】

第一段階では、便秘に対して排便を促す効果の強さを考慮する。おおよそ桃核承気湯、麻子仁丸、大承気湯、通導散、潤腸湯、桂枝加芍薬大黄湯、大建中湯の順となります。

第二段階では、弛緩性便秘と痙攣性便秘を鑑別して、その病態に適した漢方薬を選別します。弛緩性便秘に適応するのが麻子仁丸、桃核承気湯、大承気湯などの大黄剤があり、痙攣性便秘に適応がある漢方薬には大建中湯、中建中湯(大建中湯+桂枝加芍薬湯)、小建中湯があります。腸管の痙攣性病態が高度で腹痛を伴っている場合には芍薬甘草湯を併用する場合もあり得ます。芍薬が配合されている麻子仁丸は一部痙攣性便秘にも適応しています。

第三段階では、全身の漢方医学的病態を考慮する。気うつがあれば大承気湯、通導散、麻子仁丸などが適応し、気逆(イラつき)を伴えば桃核承気湯、三黄瀉心湯を考慮。生理痛など瘀血と診断されれば桃核承気湯、通導散、大黄牡丹皮湯などが最適です。肌の枯燥など血虚の兆候があれば潤腸湯が適応する。 従って月経痛、イラつきをともなった比較的高度の便秘には桃核承気湯が適応します。

麻子仁丸:便秘に対する基本的漢方薬です。配合生薬からその効果を類推すると、枳実・厚朴で精神神経系の緊張を緩和させて、自律神経系は副交感神経優位となり、気分を穏やかにします。大黄は大腸刺激剤であり、その結果の腸管の痙攣を芍薬で緩和して、麻子仁・杏仁で腸管内を潤します(大便が滑りやすくなる)。

桃核承気湯:漢方顆粒剤で便秘に対して最も効果が高い漢方薬です。全身的には‘瘀血’と捉えられる兆候と‘気逆’と表現されるイライラがあれば最適となり、‘瘀血’ ‘気逆’の状態も改善させる効果をもっています。

大承気湯:桃核承気湯に次いで排便効果が高い漢方薬です。麻子仁丸と同様に枳実・厚朴が配剤され精神神経系のある種緊張状態を緩和します。腹脹・心窩部の不快感がある場合には最適な漢方薬です。 通導散:桃核承気湯と同様に‘瘀血’ と捉えられる兆候と‘気うつ’と表現される精神状態が使用目標となります。

大黄牡丹皮湯:この漢方薬も‘瘀血’が一つの使用目標ですが、精神的問題が軽微であり、虫垂炎と類似した右下腹部の圧痛・抵抗が目標となります。実臨床では虫垂炎(盲腸炎)にもよく用いられています。 調胃承気湯:配合生薬は大黄・芒硝・甘草であり、まさに便秘の漢方薬のようですが、作用は穏やかであり、胃の部分の不快感、つかえ感にも効果的です。

潤腸湯:漢方医学的には肌の乾燥・月経不順など‘血虚’の兆候が使用目標となります。西洋薬の酸化マグネシウムと類似した効果を期待できます。

桂枝加芍薬大黄湯:腹痛・腹脹を伴った便秘に最適です。よく使われる漢方薬の一つです。

大建中湯:構成生薬の山椒・乾姜は熱剤に分類される生薬で、大腸に対して温性刺激剤となっています。これに人参が配剤され腸管の脆弱性を改善させる効果を持ちます。さらに、膠飴(小麦に麦芽を加えて糖化させた飴)はオリゴ糖であり、プレバイオティクスとして作用します。近年、大建中湯の作用機序が積極的に解明されてきています。腸管上皮・中皮細胞からのアドレノメデュリン、また腸管神経細胞からのカルシトニン遺伝子関連ペブチドの分泌を促しているとの報告があります。Kono T. et al.J Crohn’s and Colitis.2010.4.p161-170

小建中湯:桂枝加芍薬湯に膠飴を加えた漢方薬である。飲みやすく小児の便秘には最適です。大建中湯と同様に膠飴が含まれていて、腸内細菌を整えます。刺激も少なく習慣性がなく、長期間の服用でアレルギーなど他の病気にも効果が期待できます。